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経営企画部 兼 イノベーション推進部
ゼネラルパートナー

システム工学から、発電所をつくる仕事へ
堀内 J-POWER(電源開発株式会社)の井手さんにお話を伺います。最初に、自己紹介をお願いします。
井手氏 私はもともと佐賀県の出身で、大学で東京に出てきました。工学部のシステム工学──複雑なシステムの中で社会がどう動いているかを学ぶような学部にいまして、卒業後、新卒でJ-POWERに入りました。入社して2年ほどは現場で、水力発電所を統括するところにいました。それから6年間、風力発電所の開発をやった後、経営企画部にて、中期経営計画や長期計画を作ったり、会社の財務的な部分を担当したりしていました。
その中で、中期経営計画で提示した課題のひとつを解決するためにスタートアップと協業しようという話になり、バランスシートから投資する形でCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作った。それが8年くらい前です。
堀内 システム工学を専攻されて、J-POWERに入ろうと思ったきっかけはそもそも何だったんですか?
井手氏 電力事業というのは、何かすごくスペシフィックな技術を持っているというより、いろいろなものを組み合わせて使っていく事業なんです。地域の方々との関係もそうですし、技術的な部分もそう。さまざまな関係性の上に成り立っている事業で、そこがシステム工学と親和性があったのかなと思います。その対象のひとつとして電力・エネルギーがあった、ということですね。
堀内 水力の現場、風力の開発、そして経営企画からイノベーションへ。もともと一番やりたかったのはどの辺りだったんですか。
井手氏 分かりやすく言うと、私は「発電所を作りたい」。でかいものを作りたくて会社に入ったんです。風力では発電所の開発から建設までやりました。そこで一旦、やりたいことはやりきった感もあったんですよね。発電所を作るという目標に関しては達成した、と。
事業の延長線だけでは課題が解けない
堀内 それで一段落して、次に何をやるかとなったとき、より経営に近いところに行って全体を見て、スタートアップやイノベーションをやらないといけないと思われたわけですね。
井手氏 そうですね。会社の中の課題がいくつかありました。ひとつは脱炭素、カーボンニュートラル、気候変動問題です。J-POWERは石炭火力の割合が多い会社ですが、これがどんどん減っていく。しかし、そこは稼ぎ頭でもある。これは大きな課題です。一方で、それを再生可能エネルギーで埋めていこうというのは当たり前の考え方なのですが、自分自身、風力発電所を、めちゃめちゃ時間をかけて開発してきて理解したのは、風力発電が生み出す電力量は火力発電所の何分の一、下手をすると10分の1の規模でしかないということ。単純に、どんなに頑張ってもそんなにいっぱいは作れない。これはおそらく「火力ではないエネルギーから電気を作る」という話だけでは解決できないだろうな、というのがひとつ。
それから当社は、ほとんど卸売だけの事業、つまり買っていただく電力会社さんありきで発電所を作ってきた会社です。そういうやり方も、やるフィールドも変えなければいけない。そうなると自分たちだけで考えるのは難しいよねということで、スタートアップを見に行く必要があるかな、と。
飛び地から始めたスタートアップ投資
堀内 電力事業のイノベーションを起こすためのスタートアップと、電力事業以外の新規事業のためのスタートアップ。その両方を探しているのですか?
井手氏 今は完全に両方やっています。ただ、立ち上げた当時は少し遠いところから始めていました。周辺というか、飛び地のようなところから探していましたね。
堀内 周辺や飛び地だと、出資はお金があればできると思うのですが、それ以外に「スタートアップと何かを一緒にやる」のは、飛び地であればあるほど大変じゃないですか。
井手氏 正直、そういう感じではあります(笑)。文字通り飛び地に出資していて、たとえば水関連の事業とか。これは当社の中にも事業がひとつあるので、今は少し、一緒にやっている部分もあります。また、Scalarという分散型台帳技術・データベースのスタートアップに出資しているのですが、当時のJ-POWERからすると飛び地も飛び地、全く遠い領域ですよね、データベースなんて。それが今では、Scalarの技術を使って自分たちでソフトウェアを作り、そこに張って事業を展開しようとしている。そういう意味では、あの時に接点を持っておいたことが今につながっている、という感じはしています。

堀内 最初は本当に飛び地だったけれど、付き合っていく中で、自分たちの課題をそのソリューションが解決できるものになってくる場合もある、と。逆に、本当に違う事業を始めた例もありましたよね。繊維の会社でしたっけ?
井手氏 石炭灰から高機能繊維「BASHFIBER®」を作る新日本繊維です。事業としては本当に飛び地なのですが、自社事業からの生成物を使うという意味では、分かりやすくつながりがあるんです。シナジーとまで言えるかは別として、明確な接点があるという感じですね。
ポートフォリオの選定は「つながり」から
堀内 今、イノベーション推進部で出資しているのは20社くらいですよね。その中で、実際にうまくいっている、共同で何かをしているという割合はどれくらいですか?
井手氏 はっきりしているのは5社くらいですね。まだシードの段階で「これからだね」というのがまた5社くらい。あとはIPO(新規株式公開)している、エグジットしているところが数社、というイメージです。
堀内 逆に「何でもいいよ」と言われると、どうやって選ぶんでしょうか。どう決めているんですか?
井手氏 基本的にご紹介いただく形にしています。自分たちで探すというより、「自分たちはこういうことをやりたい」ということをいろいろな方とお話しして「だったらJ-POWER、こういうのやってみたら」と紹介していただく。そこが入り口になります。
堀内 ちゃんと自分たちから発信して、こういうことをやっていく、こういう課題がある、と言った上でつながりを持っていくんですね。
井手氏 ただ、シャープに課題を設定できるわけではないので、ざっくりと。例えばカーボンニュートラルや脱炭素とか、「分散」とか、そういうテーマをお話ししたりしています。堀内さんとは、「J-POWERはもっとこうなったほうがいいよね」というような深いところでお話をしながら、「だったらこういうところがいいんじゃないか」という会話をさせてもらっている感じですね。
堀内 イノベーション推進部で活動されているのは何人くらいいらっしゃいますか?
井手氏 投資先と連携している部分もかなりあって、案件ごとに1人、2人とつけているので、合わせると10人くらい。加えて外を回って案件を見に行くのを5人くらいでやっている感じですね。
堀内 今日この記事を読んでくださる、未来の投資先・提携先になるかもしれないスタートアップの方々からすると、その5人はどういうところに出没して、何を探しているんでしょうか?
井手氏 当社の場合、あまりイベントをぶらぶらして、というのはやっていなくて。「Plug and Play」などのコミュニティの中に入って、その中で仲良くなった方からご紹介いただくことが多いですね。
堀内 その5人のバックグラウンドは?
井手氏 みんなバラバラです。中途で入ってきた方もいますし、アクセラレーターのようなことをやっていた方もいる。ただそれは特殊なほうで、基本的にはJ-POWERのプロパーで、特に技術的なことをやっていた人間のほうが多いですね。
堀内 人は足りている感じですか。
井手氏 足りてはいないですね。ケーパビリティ、スキルセットのところで、やはり経験が足りない部分はあると思っています。
発電所は5カ月で作れない
堀内 今、AIによって電力需要がガッと上がってきています。特にアメリカはすごい。J-POWERさんはアメリカをはじめ他の海外エリアにも事業所がありますが、グローバルでもそういう動きをされているんですか。

井手氏 もともとJ-POWERは「必要とされる電力を作る」ということで、たとえば東南アジア──タイが一番大きいのですが──電気が足りないところに発電所を作るというビジネスモデルでした。それが、人々に電気が行き届くようになってきたら、今度はデータセンターで電気が足りない、という状況になってきている。正直、この環境変化の速さにどこまでついていけるかという課題はあるのですが、課題自体は明確なので、そこにどうアプローチしていくかというフェーズにあるかなと思います。
堀内 今、データセンターはAIを使えば5カ月くらいで立ち上がるという話が出てきていますが、発電所は5カ月で作れるんですか?
井手氏 いや、全然難しいです(笑)。
堀内 普通はどれくらいかかるものなんですか。
井手氏 たとえば風車だと、2年くらいあれば20本から30本立ったりするので、そういうオーダー感ですね。太陽光ならもっと早く、1年とかで作れたりします。
堀内 では、アメリカくらい土地が広ければ、太陽光をバーッと広げて、データセンターと同じようなタイミングで立ち上げることも、全然ありえるんですね。
井手氏 ありえると思います。ただ、たとえば変圧器などの電力を送電・変換する装置とか、電力会社への連系協議だったりとか、意外とそういうところがボトルネックだったりするんです。風車を建てればいい、パネルを並べればいい、というわけではなくて、そうじゃないところに納期がかかるものがあったりする。そこは気をつけて見なければいけない部分ですね。
イノベーションの「狙い目」は最適化されていない領域
堀内 そういうピンポイントのボトルネックを解消するスタートアップの新技術は、求められたりするんでしょうか。
井手氏 その部分は明確に需要が出てくるかなという気がします。正直、全然イノベーションされていない領域だったりするんですよね。発電の領域では、風車のタービンとか、太陽光ならペロブスカイトとか分かりやすい進化があるのですが、最後まで電力をデリバリーするところまで考えると、実は老舗の会社が何十年も同じ設計で作っているような領域がある。実はこういうところが狙い目だったりするのかもしれないですね。
堀内 太陽光は唯一、回転ではなく直流で発電する方式ですが、それ以外は、風車も石炭火力も、お湯を沸かしてタービンを回してという「回転で発電する」方式が全然変わっていないじゃないですか。そこにイノベーションは起きないものなんですか。
井手氏 結構難しいなと思っていて、要は最適化され尽くしているんです。歴史があって、かなり完成されている領域です。例えば風車の3枚翼。「なんで3枚翼なんですか」と説明できる人はあまりいないのですが、経験則的に「もうこれしかないよね」というところに到達している。そこに規制や保安のことを考え合わせると、これを覆すプロダクトがそう簡単に出てくる感じはしない。「こう変えれば理屈としてこれだけ安くなる」というロジックが明確にない限り、新しい技術が出てくるのが難しいくらいに最適化されている、という感じがしますね。
堀内 では、出来上がった仕組みの中で、変圧器のように供給が遅い領域のリードタイムをぐっと縮める。そういうイノベーションのほうが、AIデータセンターに向けて電力をどんどん供給するためには効くかもしれない、と。
井手氏 そういうところは結構ポイントになるかもしれないですね。結局、タービンひとつ部品ひとつ足りなければ、どれだけ発電しても電力自体は行き渡らないので。
堀内 そのボトルネックは、国によって違うんですか。それともどこも大体同じですか。
井手氏 たとえばアメリカだと、「系統運用者」──日本もそうですが──がボトルネックになりやすい。ただこれは技術的な問題なのか、彼らの割いているリソースで対応できないという話なのか、制度が追いついていないのか。そこは分解して考えなければいけない部分かなと思いますね。
堀内 ではスタートアップとしては、その辺りの事情まで考えてソリューションを作らないといけないわけですね。「発電効率をめちゃくちゃ上げました」という分かりやすいものから、「発電所を簡単に作れます」というところまでカバーしようとすると、課題は全然違う方向にいろいろある。
井手氏 たとえば系統運用者の話で言うと、ある意味「オンサイト」といわれる、発電所とデータセンターを一緒に作ればいいという考え方があります。でも、太陽光パネルをいくら敷いても夜は発電しないので、そのままではどうしようもない。蓄電池をセットで置かなければいけない、となるのですが、ではどれくらいの大きさの蓄電池が必要なのか。たくさん置けばいいというものでもなく、その分コストに跳ねてしまう。これが本当に経済的なんだっけ、ということを考えていかなければいけない。そこが難しいところかなと思います。
「5年で成果」を求めない、バランスシート投資の意味
堀内 課題を明確にした上で、たとえば「蓄電池を作らなければいけない」となっても、ディープテックはすぐにボンボン作れるものではなくて、時間がかかりますよね。J-POWERさんの場合はバランスシートで出資しているからそこはゆっくり見ていける、という認識でいいんでしょうか。
井手氏 そうですね。すぐに成果が出るかというところをあまり求めずにやれるのは、バランスシートからやっていることの意味だろうなと思います。
堀内 20社に出資して、やっていく中でお互いの理解が深まって、5社は共同で取り組めている。これも「1年でやらなければいけない」「5年でやらなければいけない」というより、まずやってみて、一緒に組めそうなものが出てきたらやっていく。我々ファンドのように「10年で」という縛りがあるのとは違って、時期を見ながらやっていけるということですよね。
井手氏 結構難しいなと思うのは、事業環境とプロダクトは必ずしも合っているとは限らないということなんです。「時代に対して技術が早すぎる」ということはよくある。スタートアップの技術が時代に追いつかれるまでに時間がかかることもあるので、そこに対して我々がどう関係をキープしていけるのか。ディスカッションを続けるだけでもいいのかもしれない。
先ほどのScalarの話で言うと、最初にPoC(実証実験)をやったのはもう5年くらい前なんです。そこで一度「これはまだ早い」とやめて、それがこの時代になって「やはり今やるべきだ」となっている。こういうことは結構起こりやすいかなと思いますね。

堀内 イノベーション疲れを起こすのではなく、5年前に一度やって、止めて、時期が来たら再始動させる。これは井手さんがずっと関わっているからできることですか。それとも人事異動があっても維持できるものですか。
井手氏 基本的には、同じ人がやっていないといけないというのはありますね。最初に何も分からなかった人が引き継いでも、うまく引き継げないところはあるので。そこはやはり難しいなと思います。
「BLUE MISSION 2050」という羅針盤
堀内 一方で、人材が異動したり退職されたりしても取り組みを維持するために、大きな企業には仕組みがありますよね。J-POWERさんでは「BLUE MISSION 2050」が設定されていると思いますが、その計画の背景、そもそも「BLUE MISSION 2050」とは何なのか、ご紹介いただけますか。
井手氏 「BLUE MISSION 2050」は、J-POWERが長期的に解決すべき課題を定義したものです。それが何かというと、発電事業におけるカーボンニュートラル。CO2排出を実質ゼロにすることが目標になっています。石炭火力が多い当社において、CO2をしっかり減らして気候変動問題に対応しなければいけない。その羅針盤を作らなければいけない、ということで作ったのが「BLUE MISSION 2050」です。その実現のために再エネを増やしていく。再エネが増えると系統、電気を送るところに課題が出てくるので、しっかり送れる仕組みにする。そして、火力発電所が減っていく中で、それをどういう形に転換するのか。再エネ発電のベースにするのか、石炭火力自体CO2を排出しない発電方式に変えるのか。そういったところをテーマにしています。根底には「青い地球を守ろう」という意味があって、J-POWERのコーポレートカラーとは違うブルーをあえて置いて立ち上げたものです。社内的には、そういう羅針盤があるから「これに向かってこういうことに取り組むべきだよね」というところが共有されやすくなったというのは感じますね。
堀内 青い地球を守ることに反対する人はいないですからね。イノベーション推進部は、BLUE MISSION 2050の計画策定にも関わられているんですか。
井手氏 もともと経営企画部にいたときに関わっていた部分ではあります。ただ、ここで少し面白いのは、クリエイティブパートナーとしてMTDOの田子學さんに入っていただいて作った、ということです。これは、イノベーション活動という探索活動の中で、当社に足りなかったピースとして「デザイン」「デザインマネジメント」という考え方を取り入れて作ったものなんです。経営企画主導ではありつつ、イノベーション活動と連携して作ったものになります。
堀内 そういうデザインの必要性は、システム工学をやっていたから、すんなり受け入れられたのでしょうか。
井手氏 単純に「これだけ」というのは良くないということもありますし、長く会社にいると、どうしても思考がカチカチになってくる。「どうやったらこれをうまく活かせられるか」ではなく、「もう少し俯瞰して物事を見る」。そういうところがすごく必要だな、というのは感じましたね。
堀内 経営層もすんなり理解されたんですか。
井手氏 投資家とコミュニケーションを取っているチーム、経営企画ラインの役員が主導していたのですが、結構すんなり受け入れられたと思います。
堀内 そういう軸があれば、時間とともに人材が変わっても、人事異動があっても、想いを紡いで活動に落とし込んでいける、という感じでしょうか。
井手氏 それが理想ではあるのですが、結局、思想と動き方──アクションは別ものなんですよね。特に当社のような大きい組織だと、やるべきことはやるのだけれど「何を自分でやればいいか」をゼロイチで考えるのはあまり得意ではない。そのアクションを変えるところこそ取り組んでいかなければいけない部分だろうなと。だからこそ、こういったものを仕組み化することが、重要なポイントかもしれないと思っています。
本来の目的を見失わない取り込み方
堀内 イノベーション推進部の役割で言うと、自分たちで新しいものを作る、スタートアップに出資して協業する、そしてM&Aで取り込む。出資して協業するだけならまだしも、M&Aとなると、ある種「取り込む」わけじゃないですか。私はダイバーシティ賛成派ですが、中にいる人たちからすると結構なアレルギーや反発が起きそうな気もしますし、慣れるのに時間がかかるんじゃないかと思うのですが、その辺りはどうですか?
井手氏 まさに今、議論しているところなのですが、「取り込みすぎないこと」も大事だと思うんです。J-POWERのガバナンスにそのままはめ込んではダメだと。これはスタートアップに限らず、過去のM&Aを見ていてもそう思います。我々が取りたいのはスタートアップとしての推進力であり、自由な発想、新しい発想です。これを絶対に阻害しない、というのが大事なところで、一方で、我々のアセットや資本を使って加速できるのであれば、それが本来の目的なので、それをどう達成するかをしっかり詰めていかなければいけない。ぶっちゃけて言うと、反発するような人たちが入ってこない仕組みを作らなければいけない、というのが分かりやすいイメージかもしれませんね。
堀内 既存の仕組みの強みは「安定してオペレーションすること」だったりするので、そこは難しいですよね。実際、苦労されていますか?
井手氏 そうですね(笑)。ただ、トップダウンは重要だなと思います。ある程度当たりをつけた上で「やると決めたんだからやれ」というくらいにしていかないと。反発する思いがあったとしても、「やはり必要だよね」という前提で進める。それは一定必要になる部分だと思います。
堀内 経営陣も含めて確信を持って「失敗したらしょうがないけれど、まずやるんだ」と言えるだけの下準備をしてから動く。やみくもにくっつけるのではなく。
井手氏 そういうコミュニケーションが取れる体制をとっておくことは、必要だと思います。
ゼロをイチにする発想が、すべての入り口
堀内 イノベーションの3つの手段は、かなり早い段階からイメージがあったんですか。それとも、自分たちでやってみたけれど進まなくて、という順番があったんでしょうか。
井手氏 私の中では、まずはスタートアップの発想が重要でした。ゼロをイチにしないと始まらないので、スタートアップの発想を取り入れるのがすべての入り口で、それがどのタイミングで次のフェーズにいくか、というのは最初から定義するのが難しい。ただ逆に、一緒にやり始めると、そこから先は進みが意外と速かったりするんですよね。
当社の場合、最初はイノベーションタスクというチームを3人で立ち上げて、それが3〜4年ずっと3人、しかも兼務でした。だから「がっぷり四つで一緒にやろう」とはなかなかならなかった。それが4〜5年経って、「このままではこの先にいけない、大きくしないといけない」となって、イノベーション推進部という新しい部署を作ってまでやるとなった。それによって次のフェーズにいく速度が上がった、という感覚はあります。単純にリソースをかけたから、というのはあるのですが。
堀内 20社のうち5社との取り組みも、組織の広げ方も、タイミングを見て進められている印象です。大手企業を見ていると、「何年計画」と最初に年限をバシッと切って、マイルストーンを置いて始めるケースが多いと思うのですが、最初に「5年で新規事業を立ち上げろ」のようなことは言われなかったんですか。
井手氏 タイムラインは特にありませんでした。J-POWERの場合、事業一つひとつが長いんです。5年、10年とかけて準備して50年で稼ぐという事業だったりするので、そこは他社とは違う部分かもしれません。それから、スタートアップといってもディープテック系ですし、すぐに回収できるものではないというのは、なんとなくコンセンサスとしてありましたね。
堀内 そこは大きく違いを出せる部分ですよね。「3年で」「5年で」と言われたら、「5年後にこうなるなんて分からないですよね」となってしまう。もともと長くやる前提があって、もちろんその過程は最速でやるつもりとして。信頼関係を経営とちゃんと握っている、という感じですね。
井手氏 この辺りは、やりながらコントロールするしかない部分がかなりあります。出資した先については毎月、社長以下に報告をしていて、「こう動いています」「ここはもう少し踏み込みたい」「そのためには組織を変えなければいけない」。そういったことをアジャイルに議論して、必要なところを組み替えていく。それがひとつ信頼としてはあるかなと思います。
スタートアップと大手企業の「手の取り方」
堀内 ここまで積み重ねてこられて、幅もチームも広がってきた井手さんが、日本のスタートアップに期待していること、「こういうのがあったらいいのに」と思うことはどんなものですか?
井手氏 今、足元のタイミングで感じるのは、「大企業をもっと知ってほしい」ということです。大企業は何のために存在していて、何のために継続していくのか。そこを考えた上で、そのピースを埋めるために一緒にできることは何かを考える。それが、我々がスタートアップに求めるべきことだなと思っています。大企業の内側にいる我々は凝り固まっている部分がありますし、日々の業務で手一杯だったりもするので、そういう「発想」を外に求めているんです。ただ、発想には飛んでいるところも必要ですが、地に足をつけて「まずはこれをやりましょう」も大事で、その両方をうまくデザインしてほしい、というところは結構感じますね。

堀内 それで言うと、創業する前に大企業の中に入って、一緒に課題を勉強して、「これだ」と課題を見つけてから創業するほうが、順番としていい気がするのですが、どうですか。
井手氏 それはあると思います。離れた人たちが当て合うようなやり方では、良いところに落ちていかないのかもしれない。社内で「こういうことをやりたい」と言って、アントレプレナーとして独立してやる、というのも全然良いと思うのですが、今の日本では、なんとなく起こりにくい環境のような気はしますね。
堀内 そういう取り組みは、確かにあまり聞いたことがないですね。
井手氏 最近のテーマとして考えているのは、「CVCの成果とは何か。財務リターンか、戦略リターンか」という話がありますが、財務リターンであれば、CVCではなくVCでいい。事業会社の中のCVCがコーポレートデベロップメント的な立ち位置だとすると、やはり戦略リターンを考えなければいけない。それを前提に置いたとき、スタートアップとどう組むか。そもそも論として我々大手企業に足りていないのは「発想」です。一方で大手企業は、アセットを持っているし、社会的な信頼性──「この会社はこういうことが得意で、このために存在している」というものがある。それがうまく噛み合うためには、その間にちょうど落ちる、「これがあれば確かに大事だよね」というポイントが必要なのかなと思っています。
大企業の中の人を、変えていく
堀内 それを踏まえると、大企業と取り組むスタートアップ側は創業なり事業拡大なりの時点で、ある意味すでに顧客がいるようなものだから、その顧客に向けて作って、売って、横に広げていける、と。
井手氏 成功にかなり近い気がしますね。スタートアップが作るものを作って、大企業が「これなら売れる」というところで売っていく。そういう流れができると、お互いにとって非常に分かりやすい。それがJV(合弁事業)なのかM&Aなのか、形はいろいろありますが、お互いで作ったもののトップラインが伸びていく。大手企業の新規事業として、スタートアップの事業を取り入れていくイメージですね。
堀内 そのほうが分かりやすいし、今まさに必要とされていることだという感じがします。カーバイドベンチャーズも今後、皆さんとディスカッションしながらスタートアップの事業拡大を一緒に描いていけると、日本はまた発展していくんじゃないかと思います。
井手氏 その過程で、大企業の中の人を変えていく──マインドセットやスキルセットが増えていくことが大事だと思っています。スタートアップ側も、CVCの担当者とだけ喋っていても、なかなかそこまではいかない。現場の人たちとどう組んでいくか。そこが結構大事なポイントです。意外と「この業界で経験があります」という人のほうが受け入れられやすい、というのもあるので、今の環境的にはそういう要素も結構大事かなと思いますね。
堀内 本日はありがとうございました。
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