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ベンチャービジネスサポート部長
ゼネラルパートナー

支店、経営企画、イノベーション
堀内 静岡銀行の石田さんに、スタートアップ支援についてお話を伺います。まず、石田さんご自身の自己紹介をお願いします。入行する前から、現在に至るまでのご経歴を伺えますか。
石田氏 私は静岡の菊川の出身です。掛川西高校を卒業して、慶應義塾大学に進み、静岡銀行に入行しました。(就職にあたっては)メーカーや他の銀行も考えていましたが、長男ということもあって最終的に静岡に戻るなら静岡銀行かな、と。当時は完全な売り手市場で、行きたいところに行ける時代でした。入行後は掛川支店という地元の支店に配属され、その後、豊橋南支店という、県外の比較的小さな支店を経験しました。それから静岡経済研究所──「静岡県会社要覧」という分厚い本を出しているシンクタンクです──に3年いて、また現場に戻りました。沼津金岡支店で初めて支店長を務め、次に住吉支店の支店長。このまま現場の支店長を何店舗かやるんだろうな、と漠然と考えていました。ところが住吉支店の後、経営企画部の関連事業室という部署に行きました。グループ会社の支援や成長促進の施策を取る部署です。事業計画やIRを担う企画グループ長を務めました。マネックスグループへの追加出資や、コモンズ投信への出資もこの頃に関わりました。その後営業店に戻ったあと新規事業開発の新設部署「イノベーション推進室」に異動し、再び営業店に戻り、そして現在のベンチャービジネスサポート部へ、という流れです。
堀内 支店に行って経営企画に入って、また支店に戻ってイノベーションへ。行ったり来たりされているんですね。
石田氏 どっちつかずの人材といえば、どっちつかずですね(笑)。
堀内 いえ、現場を知っておられることは心強いです。支店にいらっしゃる時と経営企画で出資をしている時とでは、やることはだいぶ違うものですか?
石田氏 経営企画に行った時は、転職したのと同じくらい、やることが全く違いました。事業戦略、IR、資本業務提携──それまでこれっぽっちも考えてこなかった人生ですから、まさに青天の霹靂でした。これまでの知識が、ほとんど役に立たなかったんですよね。営業というのは、いかに顧客と仲良くなって信頼を勝ち得るかというところですから、まったく別の部署です。正直、辛かった思い出しかありません(笑)。
何をやるか、決めるところから
堀内 その辛かったことを思い出していただくことになるかもしれませんが(笑)改めて、イノベーション推進室に異動し、何をされたのか。現在のベンチャービジネスサポート部に至るまでの経緯を伺わせてください。イノベーションの話は、どこから始まったんでしょうか?
石田氏 静岡銀行でイノベーションをやる場所、ということなんですが、何をやれという指示はない。「イノベーションをやれ」ということですから、何をやるか自分で考える。やることが決まっていて、それに向かっていくなら筋道は分かるんですが、何をやるかを決めるところから入るのは、銀行員にとって非常に辛い。銀行って基本的に、決められたルールの中でやるところがあるじゃないですか。そうではなく、ゼロから、いわゆる「ゼロイチ(0→1)」と言われることを考える部署でした。当時3人でスタートして「こういうことができないか」「これは面白くないか」と、何十本も考えました。でもほとんど実現しません。新しい事業をお金が稼げるようにビジネス化する段取りもない。リーガル、採算、リソース、人やお金──全部自分で考えなければいけない。突拍子もないことを考えると、そもそも銀行員にはできない、銀行法上の問題もある、となる。それでも、都内の事務所でそれなりの家賃と人件費を払っているわけですから、アウトプットを出さないとまずいという危機感が当時ありましたね。

堀内 銀行の中で、いきなり3人でスタートアップを始めたような感じですね。
石田氏 そうです。当時はまだマイナス金利、ゼロ金利と言われる時代でしたから、新しい収益源を作ることは銀行にとって非常に重要なミッションでした。その中のひとつが、まさにベンチャーデットです。スタートアップ向けの融資は基本的に赤字、中には債務超過の会社もある。通常の銀行員の感覚では、そこにニューマネーを出すのは非常にハードルが高い。ただ、アメリカのシリコンバレーの例を見ると、倒産するスタートアップももちろん多いけれど、GAFAMだってもともと20年、30年前はスタートアップだった。それが今や1社で日本のGDPとほぼどっこいどっこい、というところまで行くわけですよね。
エコシステムを作っていく使命感
堀内 日本とアメリカの差を、強く感じられたきっかけはあったんですか?
石田氏 イノベーション推進室のとき知って、衝撃的だった数字があります。1992年の世界の時価総額トップ50と2020年前後のトップ50を比べたんです。1992年当時は日本企業が7〜8社入っていました。NTT、トヨタ、それに金融機関。その当時もアメリカ(の企業)が一番多かったのですが、(トップは)IBMといった顔ぶれでした。それが現在を見ると、マイクロソフト、Google、NVIDIA、Apple──メンバーが全部変わっている。日本は、当時トップ50に唯一残っていたのがトヨタだけ。しかもトヨタは1992年にも入っていた。つまり日本は顔ぶれが変わっていないが、アメリカは(ランキングに入る会社数が)一番多いのが変わらないのに中身がごっそり入れ替わっている。この成長力は、やっぱりすごいんですよね。
堀内 IPOやエグジットを経た投資家・創業者が、エンジェル投資家として次の世代に資金を供給する。そういうエコシステムができている、と。
石田氏 そうです。翻って我が国はそれができていない、あるいはアメリカと比べて規模が全然違う。だとすれば、我が国でもスタートアップを育成し、それがエグジットして、その資金がエンジェル投資に向かい、新しい企業にさらに投資される──このエコシステムを作っていくことは、どうしても必要じゃないかな。そういう使命感はありましたね。ちっちゃな使命感ですけれど、今その一翼を担っているという意味ではそれなりにできたかな、と思いますけどね。当時は、やっぱりものすごく不安でしたね。
銀行員はデフォルトをものすごく気にしますから。これでデフォルトが出たらどうしよう、責任を取らされるんじゃないか、と。幸い、スタートして5年、デフォルトがないわけではないですが、ビジネスとしてはなんとか成立している。これはさらにやる価値がある、と思っています。
200社、300億円超に拡大したベンチャーデット
堀内 今、石田さんのチームで見ているのは何社で、金額の規模どれくらいですか?
石田氏 200社弱で、融資の総額では300億円超ですかね。
堀内 東京には15,000社ほどスタートアップがあると思いますが、本来はもっと多く出していけるものなんですか。それとも200社くらいがちょうどいいのか。

石田氏 (余地は)もっとあると思います。今後もチームと一緒に増やしていく。基本的には右肩上がりで増えていくと思います。
ただひとつ問題があって、1件やるのにやはり時間がかかる。特に今は、高市政権の成長戦略17分野の中でも、宇宙や核融合といった先端技術、防衛・安全保障に力を入れていく流れがあります。この辺は、ディープテックの分野が多いんですよね。本当にこの技術、このプロダクトがいけるのか。例えばロケットなら、スペースXが圧倒的になっている中で、我が国のロケットがどの市場で打ち上げられるようになるのか。衛星は、月は──。一通りスタートアップはあるのですが、アメリカと比べると、これからまだ相当投資していかなければいけない分野です。非常に魅力的なのですが、理解するのにゼロから調べてゴールまで行くのに数カ月かかるケースも多い。(ベンチャーデットは)もっと増やせるとは思うのですが、リソースの問題があるんですよね。専門性もどんどん高まっていて、これは本当に大変です。みんなで調査して、技術だけでなく、経営者の資質もやっぱり見るんですよね。
堀内 経営者を見る、と。
石田氏 ええ。将来、相当な困難がある中でやっていけるか。失礼な言い方ですが、相当のストレスの中でやっていらっしゃるわけですから、それに耐えられる人物か。あとはチームですね。CEOだけがすごくても、チームで行かないといけない。なので、チームのメンバーも当然見ますよね。
堀内 支店にいた頃の「いかに仲良くなるか」よりも、判断するほうが大事だと。
石田氏 支店のお取引先は業務内容も決まっていて、ある程度将来が予測できる。主力取引先も見えていて、マクロ要因はあっても比較的将来が見えやすい。スタートアップは将来が見えない。それを予測するのは、すごく違うところなんですよね。スタートアップの経営者はお金を集めなければいけないので、ものすごく強気な計画を出す。「そんなにいかないだろう」というのが多いわけです。なのでストレスをかけながら、「仮にここまでいかなくても、この程度でも生き残っていけるか」と考えます。うまくいかなければピボットしないといけない。ピボットも相当ストレスがかかる。そのストレスに耐えられるか、その人間力、胆力があるか。感覚でしかないですが、見るようにしていますね。
産業は転換の歴史
堀内 静岡銀行の主力取引先は既存事業で将来が見えている。でも時代は変わり、新興企業が出てくる。スタートアップを見ていて、既存の静岡県内の企業も変わっていかないとなと思われることはありますか。
石田氏 ものすごくあります。地方の中小企業は、社長一本足打法のようなところがある。日常のオペレーションをしながら新規事業に打って出るリソースがない企業も多い。そこをお手伝いするのも、銀行の役割かなと思うんですよね。新しい示唆や材料を供給させていただいて、それに乗れるかを一緒に考える。
この前、浜松で核融合のセミナーを開催したんです。例えばデータセンターの話で言えば、今はAIデータセンターでまさに電力そのもの。「鉄は国家なり」から「電力は国家なり」くらいのレベル感になっている。そのエネルギー源は何かといったときに、核融合は有力な候補の一つだと思うんですよね。核融合は裾野が広い。炉だけでなく周りの設備もある。もし日本で核融合が成立すれば、国内の発電だけでなく輸出という面も出てくる。産業の裾野が大きい。静岡県内で新規事業をやろうという時に、核融合は突拍子もないように感じられるかもしれない。でもうまくいけば大きな産業になる。こういうものに関心を持ってもらうのも、地域の金融機関の役割かなと思うんです。
産業は転換の歴史です。繊維から自動車になり、自動車から発電へ──発電量が増えれば輸出もできるはずです。将来の産業はこうなる、というのを提供していく。僕らも答えは分からないのですが、そういう努力をする。核融合だけでなく、半導体、人工ダイヤモンド、ダイヤモンド半導体、宇宙産業もそうです。ロケットや衛星のビジネスが普通になれば、産業も大きい。そういうものを提供していくのも、重要な役割かなと思います。
堀内 VCにLP出資を行い、VCからスタートアップを紹介されてデットを出し、それを静岡に持っていく。この3つのミッションがぐるぐる回っているイメージですね。

石田氏 すべてが連動していると思います。手前どもがスタートアップと取引・関係がなければ、「こういうのがあるから来てね」と言っても来てくれないわけですよね。取引をしながら企業を紹介していくのは、重要なミッションです。
190社1万人の「出会いの場」──TECH BEAT Shizuoka
堀内 イノベーションのチームを立ち上げられた時に、「TECH BEAT Shizuoka」も始められたと思います。ご存じない方もいらっしゃると思いますので、そもそも「TECH BEAT Shizuoka」とは何か、ご案内いただけますか。
石田氏 「TECH BEAT Shizuoka」は、一言で言えばスタートアップと地域企業との出会いの場です。スタートアップにとっても地域企業にとってもプラスになる仕組みでやっています。
昨年は190弱のスタートアップを呼んで、参加者数は約1万人。地方のイベントとしては相当上位だと思います。地域企業とスタートアップが、テクノロジーやプロダクトを共有することで両者の成長につなげる。オープンイノベーションを推進するイベントです。
2026年は7月23、24、25日、木金土の3日間、東静岡駅前最寄りのグランシップで開催しました。主催は静岡県と静岡銀行の両者です。最先端の話や国の政策、地域企業の経営の指針となる情報が得られる企画をたくさん揃えました。
「俺らも、もともとスタートアップだった」
堀内 2019年に初開催されてから、スタートアップの社数も参加者も非常に増えたと思います。機運が変わってきた感じはしますか。
石田氏 第1回は50社だったと思います。それも、頭を下げて来ていただいた感がありました。それが今は190社弱。「今年やらないんですか、今年もお願いします」とスタートアップ側から言われるほどです。参加者も第1回は3,000人ちょいだったのが、今は約1万人。認知度が上がった感があります。出ていただく企業も、当時はSaaS系が多かったのが、今は製造業、ディープテック、安全保障とさまざまになり、海外から参加されるところも出ています。なんとなく国際色豊かになったな、と思いますよね。
最初の頃の苦労としては、スタートアップ側を集めるときに「なぜ静岡に行かなければいけないんだ」という話がありました。都内には展示会やイベントが結構あって、リードを獲得できる確率が高い。首都圏のほうがスタートアップへの意識が高い企業が多いんですね。一方、静岡は──田舎ではないと思うのですが──「スタートアップって何?」というところから入る。「Tシャツを着た、なんだかわけの分からないお兄ちゃん」というふうに当時は思われました。それでも7年続けて、今はそれがなじんでいる。銀行が関与しないところで資本業務提携が結ばれたり、案件が成約したり、自然発生的になっている。7年前からは、ちょっと想像できないことですよね。

堀内 静岡銀行という地銀の雄が、新しい産業の種を静岡に持ってきて、静岡自体が盛り上がる。それは銀行にとっても重要なんですね。
石田氏 地域企業の生産性や売上が向上することは銀行にとって非常にハッピーなことですし、そもそもそれをやるのが地域銀行の役割だと思うんです。お金を出すだけが機能ではない。若手の行員が、お客さんと話していて「こういうことで困っている」と聞くと、うちの部で発行している「スタートアップカタログ」を見て、「これはどうですか」と自主的に提案している。そういう話を聞くと大変嬉しいですし、若手にはそういう感度があるなと感じます。
第1回目の「TECH BEAT Shizuoka」のとき、創業100年以上の会社の社長が来られて、「よく考えてみれば、俺らももともとスタートアップだったよな」とおっしゃった。今、静岡県の有力企業・大企業と言われている企業も、もともとはスタートアップだった。若いスタートアップが東京から来ると「俺らもこういう時代があったな」と思い出す。それも意味のあることだな、と思うんですよね。若い人も、感化されて起業してみよう、スタートアップに就職しようとなればいい。願わくば、静岡で創業して何十人、何百人と雇用するようなスタートアップが出てくれればいいな、と思いますよね。
ベンチャーデットから生まれる「良い循環」
堀内 ベンチャーデットを出すための審査、事業を理解して成長を見ていくのは難しい、とおっしゃっていました。支店の担当者が何百社もあるスタートアップを理解して「社長、これがいいですよ」と提案するのは、かなり大変ですよね。
石田氏 大変だと思います。なので「スタートアップカタログ」でできるだけピンポイントで分かるようにしている。ただ数十社しか載せていないので、それ以外のスタートアップも当然ある。全部を紹介するのは無理なので、そこはぜひ「TECH BEAT Shizuoka」に来ていただいて、偶然の出会いを──「これ、うちで使えるかな」と思ってもらえるだけでもラッキーですから。
堀内 デットでお付き合いする中で、借りたお金を返す意味でも事業に成長してほしい。スタートアップにも静岡企業にも、コラボレーションを通じて成長してもらう。それが第一歩ですね。
石田氏 デットを出す時に必ずその話をします。お金を出すだけでなく、「TECH BEAT Shizuoka」というイベントがあって、地域企業とコラボレーションすることも大きなミッションですよ、と。スタートアップ側にもかなり細かく言うので、「ぜひ参加させていただきます!」となる。良い循環になりつつあるかなと思います。
スタートアップが、静岡に根を下ろす
堀内 今デットを借りている方たちは静岡で起業したわけではないと思いますが、静岡に拠点を作ろう、東海エリアは静岡中心に頑張ろうという話も出てくるかもしれませんね。
石田氏 この前、ドローンの会社に融資したのですが、国内のドローンはほとんど中国製で、安全保障上よくないということで国産化を推進する流れが明確に出ている。ではどこで生産するかという話になったとき、その会社は静岡で生産することになった。進出先の市長さんも非常にラッキーだと補助金を出して、手前どもは人材面──生産管理や製造業特有の現場の人材調達──をお手伝いしている。工場ができれば雇用も生まれる。スタートアップが静岡に根を下ろすのは、ひとつの良い形かなと思います。若い人たちに「これなら自分も創業してみたい」と思ってもらえれば、より良い循環が生まれます。
静岡にも大学が何校かあって、最近は起業される方も増えていると聞きます。ただ、首都圏のスタートアップはまさに切磋琢磨していて、競争も厳しく、新しいテクノロジーをどんどん開発しなければいけない環境で生まれている。地元の大学のスタートアップにも、ぜひそういうところにアンテナを高くしていただいて、切磋琢磨することで自らも成長してほしい。できるだけ外に出て、情報収集をして、目で見て、感じてほしいなと思いますね。
堀内 世界目線ですね。
石田氏 アメリカのスタートアップはマーケットを全世界で見る。日本のスタートアップは日本のマーケットだけでもそれなりの時価総額になってしまうので、世界を見ずに国内だけで成立してしまうところも多い。でも、ディープテックは国境がないので、大きく成長する機会があるんですよね。地方の大学だと研究型のスタートアップが比較的多いと思いますが、これは日本だけでなく世界に目を向けることで大きく成長できるチャンスです。もちろん厳しいですが、そう思ってやっていただければいい。そこにちゃんと資金を供給していく。そういう循環になればいいな、と思うんですよね。
堀内 本日はありがとうございました。
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